有名なウェブ会議
現場の社員が考えついたアイデアが、思いもよらない新事業に結びついたり、大ヒットして会社を潤してくれるケ−スは少なくない。
過去の事例を振り返れば、そうした現場のアイデアマンが生み出したヒット商品は数限りなくあると言ってもいいだろう。
たとえばBのヒット商品「たまごつち」やISPのSの電子メ−ルソフト「ポストペット」、あるいは最近ではDが発売して大ヒットしたエアコン「うるるとさらら」などがそうだ。
これらの事例はとても素晴らしいし、勇気づけられる。
しかし企業経営の観点から見ると、決して効率の良い話ではない。
若手の社員が必ず素晴らしいアイデアを打ち出してくれるとは限らないし、そうしたアイデア製品が売れるという保証はないからだ。
大ヒットしたのはたまたま運が良かったり、偶然にもニッチなマーケットをすくい上げていたからかもしれない。
轍密なマーケティング分析や商品開発を行った結果とは限らないのだ。
経営メンバーには、こうした「出会い頭の大ヒット」は許されない。
経営メンバーが新しいニ−ズを創造する場合には、事前に綿密なマーケティング分析を行い、事業としてどの程度の儲けが出るのかを判断し、そしてその結果に対して責任を持つ必要がある。
業績が上がれば評価されるのは当たり前だが、売れなかった場合にも、きちんと責任を取らなければならない。
そのあたりが、現場社員の発案とは違うところである。
経営メンバーが起こす新事業は、単なるアイデア商品、新製品ではない。
新たなビジネスモデルの創出であって、当然、必要なコストも従来ビジネスの延長線とは比べものにならないほど高くなる。
会社の命運を賭けることになる。
経営メンバーが新事業をスタートさせる場合には、現場の社員とは違ったやり方が求められる。
アイデアをたくさん出して、その中からヒットを目指すのではすまされない。
運に任すのではなく、轍密な計算をもとにした事業戦略が必要とされるのである。
どの程度の規模で事業を展開し、結果としてどの程度の利益を上げたのかという経営責任が伴うのだ。
出版の世界でもそうだ。
たとえばひとりの編集者がいて、たくさん書籍を作っているとする。
最近は出版不況だからなかなか書籍は売れないが、しかし数多く刊行していれば、時々は数万部程度のヒットが出ることがある。
運が良ければ、年に数冊あるかないかという程度のミリオンヒットを生み出すこともあるかもしれない。
しかしそうしたやり方は、単なる「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」でしかない。
失敗してもたいした赤字は出ないし、会社を傾かせてしまうということもない。
最低限の黒字を確保していれば会社から文句は言われないから、まあ気楽な商売という言い方はできるだろう。
だがそれが、たとえば四十代のビジネスマン向けの新しい市場を考え、新雑誌を発行するとなると、話は全然変わってくる。
読者をどんなターゲットにするのかを考えて経営者を説得し、売上がどの程度になるのかを組み立て、そして勝負に出ることになる。
売上が思ったほどに伸びなくて廃刊に追い込まれたときのコストは、少部数の書籍を少し売ってあまり儲けが出なかったというのと比べれば、はるかに大きい。
経営に対するインパクトは、相当に強いのである。
若手社員が「こんなふうな新ビジネスができたらいいですよね」「こんな商品があったら売れるかも」と夢をふくらませ、事業のプランを練るのは楽しい。
だがその事業によってどの程度の利益を会社にもたらすのかを計算し、そして会社全体の長期戦略の中にそれらを位置づけていくというのは、まったく別の次元である。
現場の社員はあくまで、成功すればプラスになり、アイデアがうまくいかなくても責任を問われることはあまりない。
だが経営チ−ムのメンバーは、新事業を責任を持って遂行し、利益を上げなければ、大きなマイナス点が付けられてしまうのだ。
少し話を戻そう。
経営メンバーが生み出す新たな価値について、この項の冒頭で「三つのカギがある」と書いた。
ひとつめはこれまで書いてきたように、新たなニ−ズ、新たな価値の創造であり、そうした部分で新たなビジネスを展開していくことである。
では二番目のカギは何だろうか。
それは営業戦略である。
もう少しわかりやすく言えば、「売り方開発」といえばいいだろうか。
どれだけ貴重なニツチマーケットに目を付け、素晴らしい商品を作ったとしても、うまく売ることができなければ何の意味もない。
あるいは今までと同じ商品を売り続けるのであっても、誰も創造もしなかったような新しい販売戦略を打ち出すことができれば、大きな価値を生むことができる。
このような新たな売り方を開発するのも、経営チ−ムのメンバーの仕事である。
間違えてならないのは、経営メンバーがスーパー営業マンになるのではないということだ。
現場の営業マンたちがうまく商品を売れないからと言って、経営チ−ムのメンバーが「じゃあオレが売ってきてやる」と言うのでは、何の意味もない。
先頭に立って現場で営業したいのであれば、現場に戻ればいい。
営業活動は、基本的には経営チームの仕事ではないからだ。
経営チームに求めうれているのは、現場で実際に営業することではなく、営業システムを構築することである。
いろんな方法がある。
たとえばこれまで通していた問屋(出版ならば取次)を通さず、顧客に直に売るチャネルを作るというのは、IT時代の典型的な戦略だろう。
あるいは逆に、地域密着型に回帰し、地元優先のチャネルを開発するという手もあるかも知れない。
今までリーチしていなかった消費者に、どのようにしてアプローチするかというのが、売り方開発のキモとなる。
そうした売り方開発で成功した典型は、オフィス用品通信販売のアスクルだろう。
もともとは大手文具メーカー、プラスの事業として一九九三年に始まった。
当時の文具業界は最大手のKの市場支配力が強く、プラスがせっかく素晴らしい商品を開発しても、販路開拓に苦労し、なかなか売れないという状況にあった。
おまけに文具店自体もどんどん減って、昔のような地域密着型の販売は難しくなっていた。
そこでプラスは一九九一年に、ライオンから転職してきたI氏(現A社長)を中心に、直販システムを作り上げるプロジェクトをスタートさせたのである。
I氏は従来の販売チャネルとはまったく別に通販のサービスを提供することを計画。
本州や九州、四国であれば、注文の翌日に届くという「明日来る」(アスクル)の物流を確立。
そして事業を急成長させ、九七年にはプラスから分社して株式会社を設立、社長に就任している。
売上高は二OO四年五月期で千三百億円近くに達し、その急成長ぶりは文具業界の中で神話にまでなっている。
これは新たな「売り方」の創造であり、プラスという会社に多大な利益をもたらした好例である。
直販が成功すれば余分な営業マンも不要で、人件費は限りなく低く抑制できるようになる。
この事業を作り出したのはプラスの経営者ではなく、他社から転職してきて文具事業本部副本部長を務めていたI氏だった。
経営メンバーが最大限のパワーを発揮すれば、これほどの事業を成し遂げることが可能で、子会社の社長に就任することも可能ということなのだ。
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